最新号

共同時空第109号(2023年2月号発行) Contents(ページ番号をクリックすると記事に飛びます)


1教育実践の香り漂う県民図書室今津孝次郎
2-3
:ふじだなの本棚からvol.12:「『神奈川の教育事情を聞く』―経験を聞き取り、記録を残す―」(樋浦敬子

2-3:新着案内

4面-1オンライン化の波到来(峯山 智美)
4面-2:雑誌紹介:
『不登校新聞2023年1/1』



1面

教育実践の香り漂う県民図書室

星槎大学大学院教育学研究科教員 今津孝次郎

星槎大学大学院で担当する社会人院生の一人が「外国人支援とボランティア」をテーマに選んだ。きっかけは院生の自宅近くで1980~1998年の間、インドシナ難民支援の国家プロジェクトとして設置された「大和定住促進センター」に関心を持ち、支援は行政機関だけでは行き届かず、市民ボランティアが参加したにちがいないとの予想を抱いたからである。各種記録を調べていくと、たしかに何人かのボランティア女性が今もなお70~80歳代で大和市内に暮らしていることが分かった。そこで当事者を探し出し、当時の活動についてインタビューを続けた。外国人支援と多文化共生を掲げる大和市の現在の目標の「源流」に当たるのではとの想いを強くしている。

外国につながる子どもの保育・教育

私がこの研究テーマと響き合うと感じたのは、かつて三重大学に勤めていたとき、思いがけず在日韓国人女学生の小学校教員採用問題にぶつかったこと、その後の名古屋大学大学院勤務のときは、急増するブラジル人児童生徒の教育の実態について、愛知県下の小中高校を院生と共に訪問調査して廻ったこと、その後に異動した愛知東邦大学での異文化理解の演習では、多文化保育の状況を把握するために学生と共に名古屋市内の保育所を参観して廻ったこと、といった諸経験があったからである。勤務先や地域が変わっても、常に外国人児童生徒教育と多文化保育、つまり外国につながる子どもたちの教育や保育について探究する課題が、私にとって避けて通れない基本テーマの一つになっていたことに改めて気づかされる。

神奈川県も外国人の多い地域であることは知っていても、その実情に詳しくなかったので、2022年4月に教育会館を初めて訪問した際に、県民図書室に寄って、司書の佐久間さんが事前に抽出して丁寧に整理してくれていた諸資料を閲覧した。外国人生徒教育の概要を掴むとともに、在日韓国朝鮮人教育の蓄積が豊富であることが分かった。

教育実践の香り

10月に再度訪問して、県民図書室の書庫にある文献・資料をすべて見て廻った。印象深かったのは、各高校の実践記録や教職員組合の教研活動などの第一次資料が揃っていたことで、教育実践の香りが直接伝わってくる感慨を覚えた。

というのも私が1975~1985年の10年間勤務した三重大学では、三重県教職員組合の教研集会に毎年参加して各校からの実践発表にコメントするという役割が与えられたからである。人権教育分科会だったから、大学教員としてまだ駆け出しの私にとっては実に厳しい訓練の場であった。部落問題や民族問題とは何か、教育実践とは何か、教師の資質能力とは何か、といった基本事項を徹底的に叩き込まれた経験を得て、教育研究の基礎を学校現場の先生方からどれだけ教えられたかしれない。その当時の原体験と響き合ったせいか、「教育実践の香り」が漂ってきたのである。 書庫を廻りながら別の想いも抱いた。今の多忙で厳しい勤務が続く教師たちはどんな実践記録を書けるのだろうか、と。

(いまづ こうじろう)

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2-3面


ふじだなの本棚からvol.12

『神奈川の教育事情を聞く』―経験を聞き取り、記録を残す―

(※太字は県民図書室所蔵資料)


2-3面

『神奈川の教育事情を聞く』の最新刊(7)(2022年7月)の編集後記は、このシリーズを「神奈川の教育関係資料の収集・整理」を役割の一つとする県民図書室の聞き取り事業で、「組合運動に止まらず、幅広く神奈川の教育に関わったさまざまな方々から、それぞれの実践・活動や思いを自由に語っていただき、それらを記録化してきたものである」と述べている。最初の聞き取りの実施は1993年11月。以来座談会参加者も含め延べ57名の方々が語り手として登場する。神高教の『神高教50年史』などのいわば「正史」が描ききれていない「歴史」や当事者の思いを拾い上げている。

戦中・戦後の教育事情を聞く(1)※以下、( )内の数字でシリーズ番号を表す。

石井透、高橋幸三、添田徳積、伊藤博、野島邦男、小山文雄、荒井正、伊藤与志和(敬称略)の多くが組合活動の重鎮であった方々の聞き取りである。

軍国主義教育の廃止、教職員適格審査などの占領下の教育改革、創設期の神高教・新制高校の授業、神奈川方式と言われる勤評闘争・主任制闘争、組織分裂と再建等々貴重な証言だ。また青梅事件、家永教科書訴訟等を支援し、運動も担っていたこと、川崎高校、翠嵐高校の校長が語る69年の「高校闘争」についても聞き取る。

教育聞説二(2)

「槙枝元文元日教組委員長に聞く」は、勤評や主任制闘争の「神奈川方式」が日教組中央でどのように受け止められていたかの聞き取りである。

(2)のメインテーマは1969年の「高校闘争」(本聞き取りでは、この用語を使用)。バリケード封鎖、街頭デモ、生徒心得や定期テスト廃止等々の日々を当時の希望ケ丘、 川崎、翠嵐、緑ケ丘の教員が語る。「参考資料」には、「山田氏書簡」、「川高11・15改革案」「翠嵐時報縮刷版」を掲載する。尚、希望ヶ丘につては、当時の生徒自身が『‘69希望ヶ丘闘争の記録』を刊行している。

技術高校を知っていますか?(3)

1963年技術高校(以下技高)が開校された。技高の生徒は、1年生は職業訓練所の訓練生でもあり全日登校。2年以降は就職し、1昼2夜(いちひるにや)のみ登校する。技高の問題点は当初より指摘されており、高教組には技高対策会議も設置された。1976年、わずか13年で消滅。

この技高について、「普通科教員」「工業科教員」「高教組担当執行部」「卒業生」が生の声を残している。また補足説明、「参考文献」が付され、技高を改めて検証する手掛かりとなる。

厚木南高校昼間定時制・二俣川高校(4)

1969年、厚木ナイロン等企業の2交代勤務に合わせた教育課程を持つ厚木南昼間定時制が開校した。昼間定時制は、大変過酷な生活を生徒に強いるものであったと言われる。その後企業が2交替勤務を廃止したことを受けて77年から募集停止。元教員、卒業生の聞き取りと解説文で、昼間定時制とは何だったのか考えることができる。

1964年、「准看護婦」の資格が取れる全国初の衛生看護学科の学校として二俣川高校が発足。1967年、県立の衛生短期大学が設置に伴い、衛生短期大学付属二俣川高校と校名変更。聞き取りは「卒業生から聞く」であるが、参加の3名とも卒業後、母校の教員となられた方々で、二俣川高校の意義が強く訴えられている。

60年代の普通高校・工業高校(5)

1897年、最初の中学(第一中学校、後の希望ヶ丘高校)が開校、以来次々と設立されたナンバースクールが新制高校普通科として再編された。湘南と翠嵐の教員と卒業生の座談会。2期制、2週間単位の時間割、活発だった部活など、60年代の普通科について知ることができる。

1960年、「中堅技術者養成」の要望を背景に4つの工業高校が開校。「産業教育振興法」によって実習・実験に必要な施設・設備が整備され、工業教員に対する「産振手当」も新設されるなど工業高校の輝かしい時代。座談会参加者は、工業教育、技術教育の意義、可能性を熱く語っている。

60年代の新設普通科高校(6)

60年代に新設された普通科高校の柏陽、生田.大和、相模原高校について、地元の期待を担っての開校であったこと、その中で進学校としての実績を積み上げていったことなどが語られている。

また「補遺」に(1)から(5)まで、この聞き取り事業を牽引してきた、『資料でたどる神奈川勤評闘争』など著書多数の杉山宏さんの聞き取りが収められている。

70年代以降の教育活動・取り組み(7)

中野渡強志さんは、分裂工作に揺れる相模台工業で神高教の仲間と、相模原地区労の指揮のもと、修理済みの戦車が相模原補給廠から横浜へ運び出されるのを座り込みで阻止するという戦車阻止闘争に参加。また生徒の通学路の安全確保のため、基地の一部返還を勝ちとった歴史も語られる。

駒崎亮太さんは、茅ケ崎高校で生徒に学び、生徒の活動を支え、様々な問題提起をしてきた。またその活動は大きな反発も浴びた。その中で子どもたちの苦情受付の校外teltel運動、居場所つく

りの「そうじゃん」など活動の場を校外にも拡げた。その後湘南通信制へ。通信制の学びが本来の学びではないかと「先生、教えないで、私 学びたいの」にまとめ話題を呼んだ。今も手づくりの「抗って生きる」を刊行している。 最後に聞き手にも注目したい。大門正克『語る歴史、聞く歴史―オーラル・ヒストリーの現場から』(岩波新書2017年)は「聞き手が語り手の語りに耳をすますとき、聞き手は語り手に何があったのかだけでなく、語り手の思いや感情、沈黙などを含めて語りをまるごと受けとめることができる」という。このシリーズは語り手の思いを受け止めた「聞き手」の思いの伝わる記録でもある。                                                                                

(文責 樋浦敬子)

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『フランスのバカロレアにみる論述型大学入試に向けた思考力・表現力の育成』

細尾萌子(他)著2020ミネルヴァ書房 日本と異なる在り方を知ることは日本の別の選択肢を模索する事に繋がる…(本文中から)バカロレア研究の第一人者達が執筆した、バカロレア研究の最前線。

『オンライン脳』

川島隆太著2022アスコム 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題:イーロン・マスクはなぜリモートに否定的なのか?リモートで脳に大ダメージが!

『新宗教の現在地 信仰と政治権力の接近』

いのうえせつこ著2021共栄書房 信者数減少の逆風の中、票と金を求める政治家に接近し、権力との距離を縮める新宗教。信じて後悔しないために。

『当たり前の日常を手に入れるために 性搾取社会を生きる私たちの闘い』

仁藤夢乃編著2022影書房 「助ける」ことはできないかもしれないけれど、一緒にもがくよ。社会を変えてきたColaboの11年。(元神奈川県立田奈高校教諭として役割分担しながら共に生徒を支えてきた金澤信之氏との対談も収録)『教師が育つ条件』今津孝次郎著2012 岩波新書新赤版1395 今号巻頭言の著者の本。10年前出版の本だが、教育の本源を見つめる、一読に値する好書。


4-1面

オンライン化の波到来

峯山 智美

2020年1月に日本でも猛威を振るいだした新型コロナウイルス。世間ではこの時期から急速にオンライン化の波が押し寄せ、急速に広まっていった。

学校現場でも、生徒1人1人にGoogleアカウントが割り当てられ、GoogleのWebサービスが活用されるようになった。そのサービスの1つであるClassroomは、教員がClassroom内で学年や組といった単位で「クラス」とよばれるグループを作成し、その「クラス」に登録した生徒に一斉に連絡事項を共有すること等ができ、よく利用されている。

このオンライン化の波に乗り遅れるわけにはいかないと最初に取り掛かったのは、「オンライン蔵書検索システム」の導入であった。大和高校では株式会社カーリルの「学校図書館支援プログラム」を利用し、自分のスマホやパソコンから、学校図書館の蔵書を調べられる環境を整えた。

次に手を付けたのは、簡単にアンケートや集計を取ることができるFormsや連絡事項の共有等ができるClassroomといったGoogleのWebサービスである。すでに授業等で利用されており、生徒も抵抗感なく使っているのを見て、学校図書館でも活用を決めた。具体的には、Formsを利用した今年度購入する漫画や雑誌のアンケートの実施や、Classroomを利用した図書館通信の電子配信といった活用をしている。

最近新たに活用を検討しているのが、Googleサイトである。調べものをするときにまずはインターネットからスタートするという生徒が多いことから、本やインターネット上の情報を探す際に役に立つサイトを作成しようと考えた。作成するならば授業で使ってもらえるようなサイトを目指し、「総合的な探究の時間」に注目した。現在は「テーマの見つけ方」「情報資源の探し方」「参考文献の書き方」の3項目を柱にしたサイトを作成している。

以上のようにこの2年ほどで学校図書館を取り巻く環境は大きく変わり、学校図書館に求められているモノが変化してきていると感じる。物理的には外に出ていくことが難しい学校図書館が、オンライン化により外に出ていくきっかけをもらったが、その機会を生かすも殺すも学校司書次第である。新しい試みへの挑戦に難しさは感じるが、まずは思いついたことからチャレンジしてみようと思う。悪戦苦闘しながらオンライン化という荒波へと漕ぎ出す学校図書館に注目していただきたい。

(みねやま・ともみ 県立大和高等学校)

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4-2面

雑誌紹介:『不登校新聞2023年1/1

不登校新聞社

不登校新聞のミッションは「学校で苦しむ子どもが安心して生きていける社会をつくる」である。

その不登校新聞の新年最初の記事は生徒のおよそ8割が不登校経験者という九州福岡の立花高校校長へのインタビュー。見出しは「今、問われているのは学校と大人」。記事の中で不登校の要因として半数が「無気力、不安」とされていることが取り上げられ、校長は「無気力という項目自体があることがおかしい」「子どもが勝手に無気力になるわけではない。背景には必ず学校側に問われるべき問題がある」そして「そもそも不登校は「問題行動」ではなく、「問題提起行動」であるという。

立花高校は敷地内に「フリースクール」を立ち上げている。これからの学校には「非常口と自己決定の学びが必要」だという。非常口とは「いざというとき逃げることができる空間」。「教員が子どもたちを上位下達で同調圧力にさらしてしまっている」ことからの逃げ道である。 不登校支援の場やフリースクールが、外の世界から学校世界に問題提起をする存在から、もっと大きなインパクトを持つ存在に成りつつあるのではないだろうか。なお、不登校支援の場から誕生したと言ってもよい、「教育機会確保法」については「ねざすニュース92号」を参照。

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『共同時空』第109号(2023年2月発行) 神奈川県高等学校教育会館県民図書室 cropped-sitelogo-1.gif

発行人:馬鳥敦
編集:永田裕之
印刷:神奈川県高等学校教育会館
発行:神奈川県高等学校教育会館県民図書室

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