第99号

丘の上の図書室
いのうえ せつこ

「読書と映画」
 私の頭の中味は、「読書」と「映画」でつくられていると言ってもおかしくない。
 幼児の頃の私は、母親に言わせると「ご飯よ!と呼んで来ないときは、本箱の前に座って、字も読めないのに本のページをペラペラめくっていた」らしい。字が読めるようになると、家中の本や雑誌を手当たりしだいに読みまくり、何軒かの本屋ではツケで本を購入することを許されている。
 小学校4年生にもなると、少女雑誌等の文芸欄に投稿を始め、商品や賞金をゲット!してお小遣いに。現在のフリーライターの職業は、その延長線上にあると言って、過言ではない。
 太平洋戦争が終わって(1945年)、それまで禁止されていた欧米の映画が見られるようになると、家の近くの洋画専門の映画館に高校生だった叔母たちに連れて行ってもらい、邦画は祖父母と一緒に観た。中学生になると、午後の授業をエスケープして映画館に通い、翌日に生徒指導室で教師に「くだらない授業より映画の方が、よほど勉強になります」と、生意気なことを言っていた。
 そして、現在、高齢者になった私の楽しみは、映画館で映画を観ることである。大きな画面の中で、行った事のない国や見知らぬ人物が織りなすドラマやドキュメントの世界は、何より頭脳の活性化だけではなく、多くの歴史上の知識や文化を教えてくれる。昨2017年に観た映画は、64本。同好の人たちとのワインを片手に映画の感想を話し合う時間も楽しい。

「県民図書室」
 地域でのサロンで、「映像」を使った講座の計画をしたところ、紹介されたのが、県民図書室である。バスで藤棚商店街前で下車。ちょっと急な坂を上り切ると、神奈川県高等学校教育会館に。その会館の玄関から狭い階段を降りると、そこに「県民図書室」がある。
 聞くところによると、1984年に神奈川県高等学校教育資料センター所属の資料をもとに設立されたとか。現在、「図書」約2万冊。DVDやCDの「映像」約2300本。主に「教育関係」だが、見たところ、私が映画館で見た映画もあって、教育関係と言っても、その種類の巾は広い。
 私がお借りした映像は、第二次世界大戦を追った「映像の世紀」シリーズ等。団塊の世代は「映像」の文化で育った世代である。だが、東京などの映画館では、年代を超えた観客の姿がある。
「読書」や「映像」は、知識を拡げるだけではなく、権力のプロパガンダに利用される恐ろしさも忘れたくはないが、何より現在の情報過多の時代に生きる私たちにとって、「読書」と「映像」は、欠かすことの出来ない武器である。
 青春時代に触れる「読書」や「映像」は、その後の人生に大きな影響を与えることは間違いない。「本」と「映像」の宝庫、「県民図書室」に、ぜひ、多くの人が足を運んでもらいたいと願っている。ホームページも、参照いただきたい。
(フリーライター、著書に『地震は貧困に襲いかかる―「阪神・淡路大震災」死者6437人の叫び』花伝社 他)


■ 続・ふじだなのほんだなから―県民図書室所蔵の資料案内―《2》 ■
高校新指導要領の告示を間近にして―資料紹介―
太字は県民図書室所蔵図書
■ 高校学習指導要領(案)が発表される
  今回改訂される高校の指導要領は地歴公民で公共、歴史総合が登場するなど大きく変わりますが、新しい科目が登場するだけではなく、小中高を通じた、大きな変化があります。それは「内容からコンピテンシーへ」という言葉に代表されるように個々の内容もさることながらその内容を通じてどのようなコンピテンシー、「資質・能力」を育てるか、ということが強調されていることです。
■ 資質・能力って何?コンピテンシーって?
 直接に文部科学省のHPにアクセスして中教審答申やその前に出された「論点整理」を見るのもよいですが、そうした文章の基礎となっているのが『資質・能力 理論編』(東洋館出版社)です。国立教育政策研究所が出したもので、「資質・能力」とは何か、知識とはどこが違うのか、といったことがわかりやすく書かれています。いわば入門編でこれを読むと国立教育政策研究所が教育政策のシンクタンクになっていることがよくわかります。補足的に岩波ジュニア新書の『質問する、問い返す』を読むのも良いかもしれません。
■ 論争の的になっている新指導要領
 いつものことではありますが、今回の指導要領改訂はひときわ激しい論争の的になっています。
■ 全否定に近い反対論
日教組教育総研の『教育と文化』87号は、「学習指導要領大改訂の大問題」という特集で批判を展開しています。批判のポイントは教育方法にまで規制の網を広げているという点です。このポイントは批判する立場の共通点で、『民主教育研究所年報2016 新指導要領を読み解く」はより包括的に批判を展開しています。教育法的に論点を整理しているのは『教育法学会年報 立憲主義の危機と教育法』(46号 2017年)です。
■ 教育学分野では賛否両論
問題点を指摘しつつ、肯定的に評価しているのは教育学会の学会誌『教育学研究』84巻1号のシンポジウム「“育成すべき資質・能力”と“アクティブ・ラーニング”をめぐって」です。「我が国の教育実践の歴史と伝統の中で培われてきた良質な実践が、ようやく文部科学省レベルで認知されてきつつあると捉えることもできる」と述べています。日大の広田照幸さんは2017年3月の『世界』で朝日新聞の氏岡真弓さんとの対談「新しい学習指導要領は子どもの学びに何を与えるか」で(新指導要領は)「それほど悪くはない」と語っています。少し違った視点で特集を組んだのが『教育』18年2月号、「私の“主体的/対話的で深い学び“」です。


部活動についての資料紹介
太字は県民図書室蔵図書

戦前は運動部などが校友会という組織を作って活動していました。教育課程という考え方が入ってくる前のことです。校友会時代のことは旧制時代からある高校の学校史に書かれています。例えば「湘南50周年史」には戦後の校友会各部の活動についての記述があります。
■ 1970年前後
1970年告示の学習指導要領から必修クラブが導入され、クラブは教育課程内で、部活は教育課程外という整理が行われます。給特法が制定され、教員には、基本的に超過勤務が命令できなくなり、部活動に関しても様々な試みが始まります。こうした中で当時の高教組書記長の小室実さんが提案したのが「小室私案」(1972年)です。
小室私案は将来の学校五日制をも見通した抜本的な部活動改革案でした。一部実現したものもあったのですが、やがて忘れられていきました。
■ 完全学校五日制にむけて
 1992年9月から月一回の学校五日制が始まります。以後2002年の完全実施に至るまで学校は試行錯誤で五日制への準備を進めていくことになりました。この辺りのことは「ねざすNO10」「ねざすNO12」に詳しく述べられています。部活動をどうするかということも大きな課題として意識されていました。
 1994年神奈川県は「運動部活動研究協議会」を発足させ、「運動部活動考」という報告書を発刊します。この報告書によって運動部活動の意義、問題点等は出し尽くされているといって良いと思います。簡単ですが、歴史についても書かれています。報告書には学校五日制を前にした危機感が感じられます。
 同じ1994年から活動していた高教組部活問題検討委員会も1997年に職場討議用資料として「部活動の未来を探る」を発刊しました。この報告書は「現在の部活動を解体し、学校内及び学校外のそれぞれに、目的に応じてスポーツをすることができるシステムを設置する」という改革案を提起しているところに特色があります。 高教組の部活動問題検討委員会はメンバーを県の「運動部活動研究協議会」に送りました。
 この時期、全教や日高教も部活動についての検討を行い、報告書や討議資料を発刊しています。「部活動の現状と改善の方向」(日高教・部活問題検討委員会)「部活動をどう考えるか」(全日本教職員組合部活動問題検討委員会)がそれです。
■ 完全学校五日制実施後から現在まで 
 学校完全五日制実施後、土日の活動については競技団体等によって配慮がされた時期がありましたが、やがて元に戻ったように思います。現在に至るまでの部活、特に運動部活動については「ねざすNO50」「ねざすNO51」に幾つかの論考があります。
■ 部活動問題を鳥瞰するためには 
 専門書が二冊あります。中澤篤史「運動部活動の戦後と現在」と神谷拓「運動部活動の教育」です。中澤さんには「そろそろ、部活のこれからを話しませんか」という本もあります。


学校図書館は、今…盲学校の図書館より
池上 みちる 

県立高校から盲学校へ異動し、4年程経ちます。初めて勤務する特別支援学校では、先生方や幼児・児童・生徒の求めに応じているうちに時が経ち、知りたいことや勉強することはまだたくさんあると思うこの頃です。図書館業務の中には、点字本や音声図書(デイジー)、拡大図書などを提供するために、点字印刷機やデイジー作製ソフトを使ったり、ボランティアさんに製作依頼をしたりと、高校の図書館とは手法が違う点もありますが、リクエストを大切にしたい、利用者ひとりひとりの顔を思い浮かべながら選書をするという基本的な考え方は変わりありません。それが盲学校で仕事をする上でも推進力になっていると思います。
現在県内の特別支援学校のうち学校司書が配置されているのは、ろう学校と盲学校のみです。盲学校に見学に来られた他校の図書館担当の先生方によると、図書館や図書の整備をどうしたらよいか悩みながら行っているようです。また関東甲信越地区視覚障害教育研究会の図書館部会に毎年参加していますが、学校司書がいるのは埼玉県と神奈川県と横浜市のみです。都立の盲学校の中には、都教育委員会の指定により言語能力向上拠点校になったことをきっかけに整備を進めたり、図書館活動が活性化されることもあるようですが、それ以外の盲学校の先生方からは「多忙で送付物の整理だけで精一杯」「学校司書さえいれば…」という声を複数聞きました。中には教室不足のため、ある教室と図書館が兼用になってしまい、他学年の生徒が入りづらいなどスペースの確保さえ難しい学校もあるとのことです。
なぜ特別支援学校の図書館は、こんなに取り残されてしまっているのでしょうか。ひとりひとりの障害の状態や成長に合わせてきめこまかく教材を用意している先生方や、本の世界を楽しめる幼児・児童・生徒がいるのに、と思います。
(いけがみ・みちる 県立平塚盲学校)


雑誌紹介―POSSE(2017年9月刊)―
NPO法人POSSE(ポッセ)は労働相談、労働法教育、調査活動、政策研究・提言を若者自身の手で行うNPO法人。現在、年間およそ3000件の労働相談・生活相談に対応している(ホームページ)。NPO法人POSSEは、都内の大学生・若手社会人によって2006年に結成され、季刊で機関誌「POSSE」を刊行。今回取り上げるのはvol.36。今号の第一特集は「ソーシャルハラスメント」。ソーシャルハラスメント(ソーハラ)とは、FacebookやlineなどのSNSが職場で用いられる場合に、SNSを介して起きているハラスメントで、長時間労働が誘発され、プライベートな領域まで職場の論理に組み込まれてしまうそうだ。特集中「これからの『ソーハラ』航海術」で、津田大介は「公私混同」という言葉に問題点が集約されると指摘する。第二特集は「教員と労働問題」、特別企画は「医療労働問題と組合運動」で労働最前線がわかる読み応えのある雑誌となっている。