現代世界をどうみるか― エマニュエル・トッドを読んで ―
石橋 功
昨年,予想を超えて驚いたことが2つある。一つは,イギリスのEU離脱であり,二つ目は,トランプ大統領の誕生である。イギリスのEU(ヨーロッパ連合)離脱については,NHKの特集で大学生のほとんどが離脱に反対しているのを見て,大英帝国の夢を捨てられない年寄りと現実を見る若者の対立であると思い,結果的には,経済的に不利となる離脱をイギリス国民は選択しないだろうと思っていた。ところが,結果は離脱派が勝利した。
またトランプ大統領誕生については,あのようなトランプ氏の極端な政策を,移民を受け入れることで発展してきたアメリカ合衆国の国民は,最終的には拒否するだろうと考えていた。しかし,現実は違っていた。このようによくわからないことが続いたとき,エマニュエル・トッドの『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』(文春新書,2015)と「シャルリとは誰か?」(文春新書,2016)という2冊の本を知人に薦められ,これを読むことで,イギリス国民のEU離脱の選択とアメリカ合衆国におけるトランプ大統領の誕生の原因を一定理解することができた。
日本人の頭では,「EUは国境線をなくして人と物の自由な行き来をしていった結果,国境紛争もない平和な条件をつくりあげた理想的なもの」であり,そこが壊れるというのは歴史的後退と考えてしまう。またNAFTA(北アメリカ自由貿易協定)の見直しで,現在,関税をゼロとしているアメリカ・メキシコ間の貿易に関税をかけるかもしれない,というトランプ大統領の政策も同じように歴史的後退と考えられる。EUについてトッドは言う。「EUとは形を変えたドイツ帝国」と。安価な東欧の労働力を使ってドイツはEUを経済的に支配し,その結果,アメリカやロシアと対立するようになったと。イギリス人は,ドイツに支配されるEUに留まるのには抵抗があり,いずれ離脱を選択するであろうとドットは1年前に指摘している。この指摘は,1991年のソ連解体の構図を思い出すと理解できる。実際は,ロシア帝国であったソ連。その支配の源は,石油と天然ガスであった。ソ連圏にいる限り受け取れた安価な石油と天然ガスを,ロシアが供給できなくなった結果,東欧の非共産化とソ連の解体が生まれた。この逆を行き,EUの拡大と共にドイツの支配権は広がっていくようである。EUでもNAFTAでも,グローバル化で,うるおうのは強い国や強い個人であり,弱い国や弱い個人は落ち込むようである。
「シャルリとは誰か?」は,なぜフランスでイスラーム系のテロが起こるのかを的確に指摘している。フランンスの社会党のオランド政権はシリアの空爆を行っている。そういった意味では,その報復にテロが起こるのは当たり前のことであるとの指摘は納得できる。なぜなら,フランスにおけるイスラム国のテロを大きく報道する日本のマスコミは,フランスがイスラム国への空爆を行っていることを,ほとんど報道しない。そのことが我々の誤解を生むのである。また,「シャルリ・エブド」襲撃事件を受けて「私はシャルリ」と叫ぶことは,諷刺によるムハンマドの冒涜を「表現の自由」の中で認めるということであり,フランスに住む500万のイスラーム教徒はこれを認めることができないという指摘も,私はまさにその
通りだと思ってしまう。
また,この本は,現在のフランスの状況を的確に教えてくれる。以前,私が学んだフランスの状況は,フランス革命の光の部分に注目する社会党・共産党の左派と陰の部分に注目する保守派が対立している状況(この部分に関しては『世界史をどう教えるか』(山川出版社,2008)が詳しい)であり,保守派を支えているのはカトリック教徒であるという認識であった。しかし,現在,全体主義的コミュニズムの系譜をひくフランス共産党は,政治的にほとんど影響をもたない存在になったこと,また,カトリックもフランスでは衰退していること―教会のミサに参加する教徒は国民の1%であり,日本の仏教徒のほうがフランスのカトリック教徒より多いという事実―も紹介されている。こうした世俗化は,ライシテと呼ばれる政教の分離の延長上の世俗主義の浸透が結果であろう。このライシテがイスラーム教徒に向いたとき,イスラーム教徒の女性が普通に身につけるスカーフ等も学校等公共の場では禁止となる。ライシテの名のもとにイスラーム教徒は確かに抑圧されている。
この本でもう一つ注目すべきは,次の内容である。1%の富裕層・42%の中産階級・57%の庶民層という階層分化がされているフランスで,国家のヘゲモニーを握っているのは,中産階級―年金生活の高齢者で,カトリック教徒のゾンビ(カトリック的サブカルチャーが残っている存在)であること,この層が社会党のバックボーンとなっていることである。この層は,EUによる統合などのグローバル化の恩恵を受けている。これに対して,極右の国民戦線の支持層は,グローバル化による不利益をこうむる労働者という指摘である。
グローバル化ということで,フランスもイギリスもアメリカ合衆国も多くの移民を受け入れた。このことに対する反発が,イギリスのEU離脱とトランプ政権をもたらした。移民をほとんど受け入れてこなかった日本は,今のところこの問題には直面していない。しかし,グローバル化の動きは,TPP(環太平洋連携協定)などで日本にもせまっている。
(県民図書室室長)
学校図書館は、今・・・初めての異動
吉岡靖子
「おはようございます!」元気な声が聞こえる。
目と目があって、少し立ち止まってお辞儀する。なんて礼儀正しく爽やかなのだろう。
生徒にとっては日常の朝の挨拶・・・。でも、この挨拶にどれだけ元気をもらったことか・・・。
2016年4月、私は初めての異動を経験した。と言っても、2011年に臨時学校司書として高校の図書館で勤務することになり、6年目にして初めての異動となったわけである。
5年間勤務した前任校に別れを告げ、異動校に初出勤した日は何だかとても緊張し、着任者が集められた部屋ではお互いにあまり言葉を交わすこともなく、バタバタと朝の打ち合わせへ。
しかし、私はうかつにも、職員室での自分の席を確認しておらず、席が分からないまま、隅っこの方で居心地悪く小さくなって、異動初日の朝の打ち合わせをやりすごした。
すると、「吉岡さん、吉岡さんの席はここですよ。」と隣の席の先生が声をかけてくださった。心細い時に受けた親切は、いつもより沁みる。前任校でも周りの方々に助けていただいたが、ここでも・・・。とても嬉しかった。
さて、初出勤からの数日間は何をするにもわからないことずくめ。校内の移動すらいちいち案内図で場所を確認しなくてはままならず、図書整理室では必要なもののありかがわからなくて、探しものばかり。
おまけに年度初めはいろんな会議が目白押し。分掌の会議・学年の会議、どれもとても緊張して疲れる。仕事は山積なのに、全くスムーズにこなせないことに戸惑い、落ち込む・・・。
「途方に暮れる」という言葉はこんな時にこそ使うものかと思った。
しかし、「平常心が大切!」と自分に言い聞かせ、図書館を隅々まで歩いてみる。そして図書館へのご挨拶代わりに、0類から順に書架整理を始める。ふと気がつけば、さっきまでの不安な気持ちはどこかへ消え、反対にわくわくしてきた。
一心不乱に書架整理する。すると、私がこれから取り組むべき課題が見えてくる。何をするべきかは他でもなく図書館そのものが教えてくれた。司書で良かった!改めて、そう感じた。
そして迎えた始業式の日。
生徒が図書館になだれ込んでくる。お目当てはラノベ?コミック?
みんな新しく来た司書に興味があるのか、声をかけてくれる。
「私、図書委員でした。今年も図書委員になるので、学校祭のことなど去年のことなら何でも聞いてください。」・・・何と頼もしいことでしょう。「よろしくお願いします。いろいろ教えてね。」
早速、読書相談をする生徒も。「何かお薦めの本はありますか?」「どういうのが好き?ミステリー?恋愛?」「これ読んだことある?」「これ知ってます。面白かったです。」「・・さんの本好き?」・・・・などと会話が弾む。
私も仕事柄、なるべく多くの本に触れることを心がけているが、これは・・・と唸るような本はそう頻繁には出会えない。
しかし、こんな時はその中でも珠玉の一冊をお薦めする。
本を返却に来た生徒が「この間薦めてもらった本、すっごい面白かったです。」と言ってくれると、自然に顔がほころぶ。
司書冥利に尽きるとはこのことである。
図書館があって、生徒がいて、司書がいる。この3つが反応して、毎日何かが生まれている場所・・・それが学校図書館。
生徒とのやりとりから、生徒の好み、問題意識、求める情報などを汲み取り、それらの様々な要素が図書館に変化をもたらす。もちろん、先生方の温かいご支援も不可欠。(いつも感謝しています。)
インドの図書館学者ランガナタンの図書館5法則の1つである、A library is a growing organism.(図書館は成長する有機体である。)という言葉を思い出す。
これから、この図書館をどんなふうに成長させていこうか。
「おはようございます!」今日もこの言葉で図書館の新しい一日が始まる。
(藤沢清流高校)
書評と紹介
関口久志著
「性の“幸せ”ガイド~若者たちのリアルストーリー~」
エイデル研究所 2009年6月刊
著者の関口久志氏は、元高等学校の保健体育科教諭である。初めて赴任した定時制高校での保健の授業の際、人工妊娠中絶について教科書を読みながら授業を進めていたら、「先生、そんなん言うても、うちもう3回中絶したことあるで」とある女生徒から言われたそうだ。そのことが契機となり、目の前にいる生徒たちの“幸せ”につながる性教育の在り方を模索し、近代的な性(セクシュアリティ)教育の原則である①性を肯定的に捉える、②性を科学的にみる、③性の多様性を認める、をポイントに生徒の交流を重視した教育実践を行ってきた。教員を退職後、数多くの大学で性やジェンダーをテーマにした講義を受け持っている。本書は、その授業や講義の際に生徒や学生が書いたコメント(リアルストーリー)をもとに、月経・射精の相互理解、恋愛と相手の想い、性と暴力、性の商品化など幅広いテーマを展開し、人間の性について深く考えさせる内容になっている。
リアルストーリーの一つをご紹介する。「今、つきあっている彼のことが好きです。しかし、大事にしてくれているという実感が全くありません。セックスの最中でも電話で友達に呼び出されて、帰ってしまったり、私を帰したりします。避妊もしてくれません。お願いしても『嫌だ』と言われ続けました。彼を信じていたのですが、授業を毎回受けるうちに『こんなのはおかしい』と思い始
めました。まだ彼のことは、ただの子どもで悪い人じゃないと思いたい、信じたいという部分がありますが、大事にされていない自分自身を、私自身大事にすることができません。(後略)」
保健室で出会う生徒たちも、自らが抱える性に関する悩みについて、向かうべき方向が頭では分かっていても、相手や周囲の人がどう反応するか、どう思うかを気にして動きが取れないことがよくある。このように、性に関する事柄は、自分一人が正確な知識を得ても、実生活ではそれを活かせない現実を多くの若者が抱えている。だからこそ、性教育は単なる知識の伝達ではなく、自分も他者も大切にし、関係を築いていく力を養い、さらには私たちを取り巻く社会の課題に取り組む態度を育てる教育でなければならない。
このような教育を展開することは、私たちが生まれながらにして持っている自由、尊厳、平等に基づく普遍的な人権の一つである「性の権利」を保障することにつながる。「性の権利宣言」は1999年に性の健康世界学会で採択され、2014年に改訂されている。この宣言によると、私たち人間のセクシュアリティ(性)は、生涯を通じて人間であることの中心的側面をなし、生物学的性、性自認と性役割、性的指向、エロティシズム、喜び、親密さ、生殖がそこに含まれる。そして、セクシュアリティは、生物学的、心理的、社会的、経済的、政治的、文化的、法的、歴史的、宗教的、およびスピリチュアルな要因の相互作用に影響されるものである。さらに、セクシュアリティは、喜びとwell-being(良好な状態・幸福・安寧・福祉)の源であり、全体的な充足感と満足感に寄与するものである。
現状の日本の学習指導要領は、性を体系的に、包括的に学ぶようにはできていない。子どもたち
の性の権利を、well-beingの源を十分に保障する内容ではない。そのことに歯がゆさと危機感をお持ちの方も多いであろう。しかし、本書に綴られているリアルストーリーと、著者の講義が浮かぶような優しい語り口によって、まずは自分の目の前の子どもたちの性の幸せから考えようという使命感と勇気が湧いてくるだろう。
私たち大人の性を信頼と喜びに満ちた豊かなものにしていく努力も必要かもしれない。
(鶴見高校 養護教諭 福島静恵)
秋田 茂・永原陽子・羽田 正・南塚信吾・三宅明正・桃木至朗 編著
『「世界史」の世界史』
ミネルヴァ書房 2016年9月刊
2006年に明らかとなった「世界史未履修問題」は,歴史教育や歴史研究に関わる者に対し様々な問題を投げかけた。それは,世界史ではなく日本史の必修化の是非であるとか,用語の暗記を中心とした教育方法に対する批判であるとか,大学の研究と教科書の記述との乖離であるとか,広範な分野にわたっていた。これら,制度や方法論をめぐる個別の議論がなされる一方で,従来の「(高校)世界史」の枠組み自体を再検討する動きも,少しずつではあったが着実に,大学・高校双方の立場から進められてきた。再検討の主たる課題は,「日本史」と「世界史」との分断をどのように解消すべきかということで,その過程で『大人のための近現代史19世紀編』(東京大学出版会,2009)『市民のための世界史』(大阪大学出版会,2014),『新しく学ぶ西洋の歴史―アジアから考える―』(ミネルヴァ書房,2016)など意欲的な概説書が刊行されてきた。そして,これらの成果を一段掘り下げた研究書として「MINERVA世界史叢書」(全16巻)の刊行が始まった。
本書は,その総論にあたり,人類が各地域に描いてきた世界史像を読者に示し,それらの中からいわゆる近代(西欧的)歴史学がどのように成立し,そこにはどのような問題点があったのかということを論じている。第Ⅰ部では,「さまざまな世界像」という表題で,日本・中華(中国)・古代インド・「周辺国」(日本・朝鮮・ベトナム)・ギリシア・キリスト教世界(中世ヨーロッパ)・イスラーム世界・アイヌ・メソアメリカ・サン(ブッシュマン)を取り上げ,各々の世界像を概観している。ここでは,諸地域の多様な世界観を改めて認識するとともに,これらの世界観が風土や言語・宗教などで区分される「閉じた」地域内で専ら形成されたものではないことに気づかされる。つまり,時代とともに諸地域間の接触と交流が進む中で得た他地域からの新たな知見を,ある時は,自身の世界像を補強するために利用し,またある時は,自身の世界像を修正する拠り所としていたのである。前者の例としては,江戸期の国学者として有名(日本史用語集の頻度⑧)な平田篤胤が皇国の至上性を説明するに際し「ノアの洪水」を援用していることがあげられる(第1章)。また,後者の例としては,イエズス会士がヨーロッパに持ち帰った中国史によって聖書に依拠した年代研究の修正に結びついたことがあげられる(第6章)。続く代Ⅱ部では「近現代の世界史」という表題で,啓蒙主義の世界観・実証主義的「世界史」・近代日本の「万国史」・マルクス主義の世界史・世界システム論・現代日本の「世界史」とほぼ時系列に沿った形で歴史学の諸潮流を概観している。中でも,マルクス主義(第15章)以降,編者の一人である桃木至朗氏による「現代日本の「世界史」」(第17章),編集委員会による「われわれが目指す世界史」(総論)にいたる部分は,現役の高校教員が大学で学んできた,そして高校教科書の記述で慣れ親しんできた「歴史(世界史)」の枠組みを批判的に再確認する際の指針となるであろう。
高校教員にとって,本書は,具体的な歴史的事項(事件)に直接触れていないという点で,また,「これが新たな世界史像だ」という明解な結論も示されていない点でも,いささか難解に感じられるかも知れない。しかし,研究者がどのような枠組みで「新たな世界史」を考えているかということに無頓着なままで授業に臨めば,どのような授業技法を用いたとしても,「自身が学生(高校生)時代に学んだ世界史を繰り返し教えるだけのお気楽教師」になってしまうのではないか。我々は学者ではないのかもしれないが,単なるDVDメディアでもない。そのようにお考えの先生方には,ぜひ一読をお奨めする。
(寒川高校 澤野 理)
ラグビーと通学路…相模台工業高校
1962年4月上溝高校の校舎を借りて発足した相模台工業高校(略称:相台工)は、その同年に開校した磯子・向の岡・小田原城北と合わせて新設4工業高校と呼ばれ続けられてきた。京浜工業地帯を抱える神奈川県は、「中堅技術者」の人材確保として、従来の機械科や電気科に加えて新しい学科を創設した。例えば、新設工業高校にはプラント建設のためとして化学工学科や自動制御技術が必要とされているとして電子科などである。相台工も初年度は電子科1クラス、化学工学科2クラスで開校し、2年目から機械科3クラス、電気科2クラスを加えて4学科となった。定時制も2年目から機械科、電気科が設置された。
43年を経て2005年に相模原工業技術高校と合併して同一校地の新校舎で「神奈川総合産業高等学校」という新しい学校に生まれ変わった。全日制は総合産業学科、定時制は総合学科となり、工業高校という名は消えた。なお、新設4工業高校と呼ばれた他の3工業高校はそのままで存続している。
1968年に相台工に着任した私は、全日制14年間と退職前の12年間を定時制に勤務、教職員組合の役員として休職していた時期とも合わせて、この校地に教員生活を終えるまで通い続けることになった。
43年間の相台工の内容は「〇〇周年記念誌」などに詳しく記載されているので、それに譲ることにし、思い出すこと2点を記すことにした。
相台工と言えばラグビーだ。県下屈指のラグビーの名門であり、花園に16回の出場を誇った。神奈川県の公立高校として出場したのは1947年の横浜市立横浜商業高等学校以来であった。1993年に全国高校ラグビー大会初優勝、そして、次年度に2連覇を達成した。
私が初めて担任したラグビー部生徒2名が3年生になり、神奈川で優勝し花園に行ったのが全国大会初デビューであった。
もう一つの思い出は相台工の通学路である。私が着任した時期の通学は、相模大野駅から相台工までほとんどは徒歩であった。女子大通りから女子大前信号を右折し相模女子大の塀に沿って歩くのが常であった。今ある伊勢丹や相模大野高校、そして公団の高層マンションなどの敷地はすべて米軍基地だった。相模女子大と基地の間の歩道は、片側で狭いもので、その狭い歩道に相台工の生徒はもちろんのこと相模女子大の小・中・高生や矢口台小学校、そして大野南中の生徒でひしめいた。この狭い道路は、砂利道のときはバスやタクシーぐらいだけが通っていたが、舗装された途端に乗用車が裏道として流れ込んできた。朝の通学路はまさに当時の言葉で「交通戦争」と呼ばれていたことを覚えている。
その狭い歩道の反対側は金網から見える広い芝生の米軍基地があり、少しバックしてもらえれば歩道ができると誰もが思う気持ちになる。一方で米軍基地の縮小につながる基地の割譲はとうてい無理であると思う気持ちもあった。ベトナム戦争が激しい時期であった。
しかし、通学生徒の命を守ろうとする4校の職員の運動が勝っていた。当時の市民に訴えるビラには次のような文言がある。「通ってみれば誰にでも否応なく目に映りますが、柵一つで人一人も通らぬ米軍病院の空き地と歩道があります。ヘリコプターの騒音、煤煙、悪臭等々をまき散らし、わけのわからぬ細菌研究までやっているという広大な米軍病院があります。日本の国土で児童・生徒が道の狭さで生命の危険にさらされている。皮肉な日本の縮図です。」
当時は、署名用紙を生徒に家に持ち帰ってもらい保護者に署名をお願いすることもできた。多くの近隣市民の要望とも合わせて相模原市に提出した。すると、1年後に何と日米合同委員会で3.5メートルバックし歩道を設置することが確認された。
歩道が完成したのは1972年の春であった。
(相台工旧職員 中野渡強志)
2016年夏季講座アンケート集約抜粋
A 7月25日 「歴史総合」について知る
・歴史総合の動向について深く知ることができました。これから社会科教育で重要になりそうなことを考える機会になりました。出席して良かったです。
・画一化された学習内容と多様な生徒達へとどのようにフィードバックすればよいかということを学べる貴重な機会でした。ありがとうございました。
・最近の動向がわかって良かったです。勉強になりました。ありがとうございました。
・今月は25日まで学校がありました。今回は勉強になりました。多彩なテーマをやってください。
B 7月26日 ビギナーのための朗読講座
・朗読のありかた、こんなにむずかいいとは思わなかった。極めている方の朗読を聞くと素晴らしいものがつくれるのかなと思いました。講師の教え、いろいろ知っていらっしゃることに感心しました。
・文章を読み込んでイメージする。絵を描くことが大事と言うことがよくわかりました。これからの朗読に生かしていきたいと思います。
・言葉の美しさを思い出す会でした。内容を消化するのにもう少し時間がかかりそうです。家庭科、保育の「絵本の読み聞かせ」体験で生かしていきたいです。」
・実践したのが勉強になりました。朗読したり他のグループの朗読を聞くと解釈が深まると思いました。C 7月28日 主権者教育を考える
・現場の教育の実践例も良かったですが、やはり、大学の専門性の高い話が聞けて良かったです。林先生のお話で「子どもは有権者でなくても主権者」という言葉があり、確か子どもの時から大人になった時にどうふるまうかを考えさせないといけないと考えました。湘南台高校の事前学習の実際の生徒の意見や数字が具体的に知れれば良かったです。
・主権者教育が単なる「18歳選挙権教育」ではなく自分達の生活を主体的に見直し、キャリア教育とも関係して、まさに主体者といてどう生きるかという大きなものであることがよくわかりました
D 7月29日 支援教育についての講座
・勉強・刺激になりました。勤務校では田奈高校のような変革はとうてい無理だと確信しました
・神奈川の「支援教育」の由来だけではなく教員ー生徒間、教員間、教員ー保護者間の対話の重要性、そして「困っている」生徒、教員、保護者への「感情移入」による「主体」化としてフレキシブルな学校づくりのための様々な工夫を学ぶことができました。「主体性」=「当事者性」、「困難さ」=「生きづらさ」への「支援」という大きな視点を学ぶことができた思いです。
E 8月17日 表現教育のワークショップ
・とても啓発されました。本能寺の変というテーマで段階を踏んで調べて話し合い演劇にしていくはじめての経験でしたが、みんなで話し合い他の人の考えを聞き一つのものを作り上げる楽しさに気づきました。
・授業の中でも時々ペアやグループで寸劇をさせることがありますが生徒は生き生き取り組んでくれます。その気持ち今回自分でも実感できました。今日いろいろアイデアをいただいたので日々の授業の中で生かしていきたいと思います。
・みんなで作っていく感じが味わえる貴重な体験が今後の教育活動に生かして行けそうです。毎年継続して行って頂きたいことを切に希望します。
F 8月19日 アクティブラーニングについての講座
・それぞれの講師のアイデア、実践報告はとても興味深かったです。ただ学校のレベルによって、やり方にはかなりの工夫が必要だと思いました。「アクティブラーニング」=「参加型」ととらえていますが、その前提となる「習得(知識)」がおろそかになる傾向への警鐘は講師からの指摘にあったように大切だと思います。
・実践例を拝見することができ、とても役に立ちました。自分の授業に取り入れるべきことがたくさん見つかり参加してとてもよかったです。
・授業内容も具体的に分かって良かったです。田中先生、渡辺先生のお話からは先生たちご自身の経験や興味が授業内容に反映されているので、やはり教員自身の経験値・教養を高めていく必要があると思いました。小島先生のお話ではAL授業の目的は生涯学習なのだということが分かり改めて自分の授業のゴールはどこにあるのか考えてみようと思いました。
・とても参考になりました。細かい技法やアイデアを是非日々の授業に取り入れていきたいです。開発教育の実践も素晴らしいと思いました。渡辺先生の高度な実践、こういうことを若い人にしっかり教えていかなければならないと思いました。
2017年夏季講座も2016年同じような内容(学校現場に必要な情報を提供する内容)で開講します。夏季講座の出席は、県教育委員会が認める研修となる予定です。学校外に一歩出て必要な情報と優れた教育実践と出会いましょう。
詳しくは、5月配布予定のチラシを見てください。チラシが来ない場合は、高校教育会館のホームページを見てください。
余瀝
この号で共同時空のこのスタイルでの発行は終了する。4月以降どういう形になるか今はわからない。ただこうした知的営みが続くことを期待している。
編集 県民図書室 石橋 功