第85号

2012年 6年目の夏休み 広島・福島・上野千鶴子
宮野 未来 
 「正しいことを言うときは 少しひかえめにするほうがいい 正しいことを言うときは 相手を傷つけやすいものだと 気づいているほうがいい」(吉野弘『祝婚歌』)“正しいこと”を“真実”または“事実”と置き換えてみると、“事実は人を傷つけやすいもの”となる。教員6年目の夏は好機に恵まれ、広島に福島にフェミニズムにと、事実を目の当たりにし、傷つき、考えさせられる夏となった。
 8月6日、広島で開催された原水爆禁止世界大会に出席させてもらった。戦争で被爆したという事実は、多くの人を傷つけ、多くのものを奪い、今もなお人々を苦しめている。広島大会の中で、体験談を聞かせてもらった。当事者が語ることの力強さに圧倒された。決して歴史上の事実で終わってはいないし、この日に広島に集うことに意味があると再確認した。たとえ、日々の生活の中で忘れてしまったとしても、思い出し、共有し、語り継いでいくことが大切だ。67年が経ち、もはや戦争を自分の経験として語れる人は少なくなっている。その中で自分ができることを考えたい。
 「被爆国日本」という言葉は、死語になっていない。2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震に伴った、福島第一原発の事故。まず原発事故以前の巨大地震という現実に、当初、私などは目を背けてしまった。あの時期、私はかなり意図的にニュース断ちをした。テレビ画面に津波の映像が映ったら、すぐにチャンネルを変えた。新聞の報道写真を見られるようになったのも、かなり時間が経ってからだ。事実を正面から受け止められる自信がなく、純粋に怖かった。地震・津波の被害を直視すると、傷ついてしまうことを知っていたのかもしれない。
 しかし、傷つくことを恐れて逃げてばかりもいられない。傷つきながらも立ち上がったのが、官邸前金曜デモなのではないか。私も6月末から一ヶ月間、時間が許す限り通ってみた。デモのことを知ったのはツイッターを通してだ。初めて参加したのは6月29日。17時前に永田町に到着した。まだ人は全然集まっておらず、警察の姿もほとんど見えない。「嵐の前の静けさ」そう感じた。18時からスタートするデモだと聞いており、17時半頃に列に並んだ。18時、みるみるうちに人は増え、「原発反対!再稼働反対!」の声がスタートした。その日のデモのメンバーの印象は、ほとんどが20代から30代で、それも個人で来ている様子だった。ひとりひとり、絵やメッセージカードを片手に、静かにそこにいる人が多かった。
 それが回を重ねるにつれ、人数の変化もさることながら、参加者の年齢層も変わっていった。新聞やテレビで少しずつ報道され始めたからだろう。2012年の4月から細々と始まった首相官邸前抗議行動が、大きな動きとなっていった。数回訪れ、鳥肌が止まらないこともあった。動員じゃない、誰に何を言われたでもない人たちが、こんなに集まっている。それぞれ年齢も格好も様々な中で、主張していることはただ一つ。なのに、全く動こうとしない政府。市民の大きな動きに対する衝撃と、政府に対する憤りが入り混じっていた。
 福島にも足を運んだ。正確に言うと、一緒にデモに参加していた先輩に強引に誘われ、恐る恐るついて行ったというのが本当のところだ。神高教平和運動推進委員会主催の福島ツアーで、飯舘村、南相馬市、二本松市を訪れた。何より衝撃を受けたのは、その風景だった。飯舘村の草原となった田畑。ただ何もなく広がる南相馬市の海岸、二本松市の仮設住宅。現実を目の当たりにした。加えて仮設住宅に住んでいる方の話を聞く機会があったことは、また私に事実をつきつけた。3月11日以降、福島に起こったことは本当にやるせなく、人々に大きな影響を及ぼしている。そしてこれからもその影響は続いていく。福島で生きている、闘っている人たちがいる。
 “事実は人を傷つけやすいもの”だから、傷つきたくなければ見なければいい、という話ではないのだ。傷つきはすれど、どうその事実と向き合い、闘うかー闘いの話である。ケンカの話である。今年の夏はまた、幸運なことに「売られたケンカは買う」という上野千鶴子さんの講演会にスタッフとして携わることができた。多くの人が見て見ぬふりをして諦めかけている事実を、ビシッと明言してくれる上野さんの言葉には、闘いのヒントがたくさんあった。
 まず、講演会を企画するにあたって、『上野千鶴子に挑む』(千田有紀編 勁草書房 2011年)を手に取った。上野さんの“弟子”たちが、彼女のこれまでの研究に“挑む”というものだ。大きなくくりとして、「ジェンダー・家族・セクシュアリティ」、「文化の社会学」、「ポストコロニアル・マイノリティ」、「当事者主権」と4部構成になっており、それぞれの中で、対幻想論、マルクス主義フェミニズム、主婦論争、男性学、女子文化、言葉とジェンダー、消費社会論、共同幻想論、「慰安婦」問題、おひとりさまなどのテーマが扱われ、上野さんの携わってきた分野を網羅するものになっている。
 「カツマーとカヤマーのあいだ―教育のネオリベ改革とジェンダー―」と題した講演会の内容もまた多岐に渡った。こころを病む東大生と上野ゼミの保健室化、ネオリベラリズムが社会へ与えた影響、若者の中のジェンダー、母の娘への呪縛、カツマー(勝間和代を支持する人たち)とカヤマー(香山リカを支持する人たち)、社会的弱者から学ぶことなどなど。男性が女性化し、女性が男性化(現実には女性に家庭も、介護も、キャリアも、墓もと、女性性と男性性の両方を背負わせているのだが)している中で、放っておけばジェンダーがなくなると言う人もいる。しかし、それを「押し戻し、介入、抵抗していくべき」と上野さんは言う。実際、ネオリベ改革で得をした女性もいるが、勝ち組は氷山の一角であり、その下には努力したくてもできない層がいるのが現実だ。
 講演の後半は質疑応答タイムだったが、リードする上野さんの言葉の中にも印象的な言葉があった。著書『サヨナラ、学校化社会』(ちくま文庫 2008年)に「私は『いけんがありませんか』というときには、かならず『異見』と書くようにしています。異なる見解というわけです。ご『異見』というのは、その人のオリジナリティのことです。『異見』というのは、あなたと私はここが違う、という距離のことだからです。」という文章がある。フロアーからの質問に対する上野さんの切り返しに、異見は異見として聞きながら、言うべきことはしっかりと主張する姿勢を見ることができた。
 上野さんに言わせると、長年彼女のファンであることは“不幸”なのだそうだが、それでも注目せずにはいられない。前掲の『上野千鶴子に挑む』には次のような文章がある。「『あなた(たち)の幸せはあなた(たち)が考えなさい。そしてそれを実現するために行動しなさい』。自分(たち)の考える幸せのかたちとはまったく違う幸せのかたちが提示されていながら、私たちが上野の著作を読み続け、勇気を与えられ続けるのは、彼女の著作の底流に、そんなメッセージが流れ続けているからだろう。」(阿部真大「ポスト『家族の世紀』の『おひとりさま』論」pp.357)講演会でも「上野さんのメッセージに励まされてきた」などの発言が相次ぎ、感想アンケートには「教員を辞めようと思っていたけれど、また学校に戻って実践する意欲がわいてきた」とあり、通ずるものがあるだろう。
 “事実は人を傷つけやすいもの”だけれど、ゆっくりでも、それに向き合い、傷つきながらも、闘うことを続けたい。
         
(県立寒川高校 みやのみく)

新 着 DVD・フ ィ ル ム 一 覧 (2012年6月~2012年8月受入)
DVD
松代大本営
イラク 放射能を浴びる子どもたち (30分)
イラク アメリカ軍の撤退を求めて ジャーハダ イラク民衆の闘い (36分)
GOBAKU アメリカは誰と戦っているのか? (50分)
原発 その利権の構造 (30分)
「主婦の一日」 (10分)
きょうを守る 東日本大震災ドキュメンタリー (70分)
姉妹よ、まずかく疑うことを習え 山川菊栄の思想と活動 (76分)
内部被ばくを生き抜く 4人の医師が語る経験 広島、チェルノブイリ、イラク、福岡 (80分)
ちいさな哲学者たち (103分)

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新着図書一覧(2012年6月~2012年8月受入)

081 
岩波ブックレット №841 フォトエッセイ希望の大地 桃井和馬 岩波書店 2012

081 
岩波ブックレット №838 ひきこもりのライフプラン 斎藤環・畠中雅子 岩波書店 2012

081 
岩波ブックレット №839 避難する権利、それぞれの選択 河崎健一郎 他 岩波書店 2012

081 
岩波ブックレット №837 「学び」という希望 尾木直樹 岩波書店 2012

081 
岩波ブックレット №840 日本の保育はどうなる 普光院亜紀 岩波書店 2012

081イ 
岩波ブックレット №842 学校を改革する 佐藤学 岩波書店 2012

081イ 
岩波ブックレット №844 年表昭和・平成史 中村正則・森武麿 岩波書店 2012

081イ 
岩波ブックレット №845 内村鑑三をよむ 若松英輔 岩波書店 2012

081イ 
岩波ブックレット №843 ”3・11後の自衛隊” 半田滋 岩波書店 2012

140エ 
ヒューマン なぜヒトは人間になれたのか NHKスペシャル取材班 角川書店 2012

159ノ 
ニッポン女子力 「気がきく」「たてる」最強のDNA 能町光香 小学館 2012

213シ 
写真アルバム 横浜市の昭和 趙衛国 いき書房 2012

303コ 
男女共同参画統計データブック2012 日本の女性と男性 独立行政法人国立女性教育会館 ぎょうせい 2012

304ア 
若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か 赤木智弘 双風社 2007

304サ 
60年代のリアル 佐藤信 ミネルヴァ書房 2011

304ト 
福祉社会論 東北学院大学社会福祉研究所研究叢書Ⅷ 東北学院大学社会福祉研究所 東北学院大学 2011

316マ 
ヘイト・クライム 憎悪犯罪が日本を壊す 前田朗 三一書房労働組合 2010

318Yシ 
神奈川県職員録 2012 神奈川県総務局人材課 神奈川県総務局人材課 2012

318.8マ 
原水禁書名運動の誕生 東京・杉並の住民パワーと水脈 丸浜江里子 凱風社 2011

361.6ヤ 
ネットと愛国 在特会ノ「闇」を追いかけて 安田浩一 講談社 2012

361.9キ 
京大生のフリーター・イメージ 京都大学文学部社会学研究室 2009年度社会学実習報告書 京都大学文学部社会学研究室 太郎丸博 編 京都大学 2010

361ウ 
上野千鶴子に挑む 千田有紀 勁草書房 2011

364.1ル 
準市場 もう一つの見えざる手 選択と競争による公共サービスジュリアン・ルグラン 法律文化社 2010

364オ 
不安家族 働けない転落社会を克服せよ 大嶋寧子 日本経済新聞出版社 2011

366.2Yカ 
神奈川県における若年層のフリーターの実態に関する研究 神奈川県政策研究・大学連携センター シンクタンク神奈川 シンクタンク神奈川 2012

366.29オ 
大学就職部にできること 大島真夫 勁草書房 2012

366.29キ 
キャリア教育コーディネーター 新たな教育作りの仕掛け人 一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会 河合塾 2011

366.29コ 
これが論点!就職問題 児美川孝一郎 日本図書センター 2012

366.3 
パワハラなんでも相談 職場のいじめ・いやがらせで困っていませんか 金子雅臣・加城千波 日本評論社 2012

366.38ミ 
働き続ける女子のための会社のルールとお金の話 宮本恵美子 中央経済社 2012
366.3ト 
解雇・退職 シリーズ 働く人を守る 徳住堅治 中央経済社 2012

366.3ロ 
職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメント対策に関する労使ヒアリング調査 予防・解決に向けた労使の取組み 独立行政法人労働政策研究・研修機構 労働政策研究・研修機構 2012

366レ 
「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」調査報告書 第22回 勤労者短観 公益財団法人連合総合生活開発研究所 連合総合生活開発研究所 2011

366ロ 
ケア・協働・アンペイドワーク 揺らぐ労働の輪郭労働再審5 仁平典宏・山下順子 編 大月書店 2011

366ロ 
労働と生存権 労働再審6 山森亮 大月書店 2012

367Yカ 女性に対する総合相談 現状の分析と今後の対応策に関する調査研究 神奈川県立かながわ女性センター 神奈川県立かながわ女性センター 2012

367.1オ 
フェミニズムの政治学 ケアの倫理をグローバル社会へ 岡野八代 みすず書房 2012

367.1カ 
<悪女>と<良女>の身体表象 神奈川大学人文学研究叢書29 笠間千浪 青弓社 2012

367.1ソ 
フィリピンにおける女性の人権尊重とジェンダー平等シリーズ「国際ジェンダー研究」別巻2 ソブリチャ・キャロリン 御茶の水書房 2012

367.1ナ 
地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況 平成23年度 市区町村編 内閣府男女共同参画局 内閣府男女共同参画局推進課 2012

367.1ナ 女性の政策・方針決定参画状況調べ 内閣府男女共同参画局 内閣府男女共同参画局推進課 2012

367.1ナ 
地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況 平成23年度 概要 内閣府男女共同参画局 内閣府男女共同参画局推進課 2012

367.1ナ 
地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況 平成23年度 都道府県・政令指定都市編内閣府男女共同参画局 内閣府男女共同参画局推進課 2012

367.1ハ 
「女子」の時代! 青弓社ライブラリー72 馬場伸彦・池田太臣 青弓社 2012

367.1ハ 
女性差別撤廃条約と私たち 現代選書5 林陽子 編著 信山社 2011

367.1ミ 
女性・ネイティブ・他者 ポストコロニアリズムとフェミニズム岩波人文書セレクション ミンハ・トリン・T 岩波 2011

367.1モ 
境界なきフェミニズム サピエンティア23 モーハンティー・チャンドラー・タルパデー (財)法政大学出版局 2012
367.1ロ 
キレイならいいのか ビューティー・バイアス ロード・デボラ・L 亜紀書房 2012

367.2カ 
明治・大正・昭和かまくらの女性史 通史 かまくら男女共同参画市民ネットワーク「アンサンブル21」女性史編さん部会 日経印刷 2012

367.5ア 
「男らしさ」の現代史 男性史3 安部恒久・大日方純夫・天野正子 日本経済評論社 2006

367.6イ 
今、日本の子供たちは 続・子供たちからの警告 市川隆一郎 相模書房 2012

367.6ウ 
子どもたちの逸脱・非行 生き方のパラダイム変化と文化的分化の視座から 淑徳大学総合福祉学部研究叢書26 占部慎一 学文社 2009

367.6カ 
なぜ若者は「自立」から降りるのか しあわせな「ひも婚」ヘ梶原公子 同時代社 2012

367.6キ 
ひきこもってよかった 暗闇から抜け出して 5人の若者による苦悩と葛藤の報告 NPO法人 京都ARU編集部 編 クリエイツかもがわ 2012

367.6セ 
子どもの立ち直り支援に求められるもの 次代を担う少年の育成のために 全少協少年研究叢書23 公益社団法人 全国少年警察ボランティア協会 全国少年警察ボランティア協会 2012

367.6ナ 
青少年のインターネット利用環境実態調査 報告書 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)付青少年環境整備担当 内閣府政策統括官(共生社会政策担当) 2012

367.6ミ 
ありがとう 水谷修 日本評論社 2011

367.6モ 
子どもたちの叫び 児童虐待、アスペルガー症候群の現実 特定非営利活動法人モバイル・コミュニケーション・ファンド NTT出版 2007

367.6ヨ 
横浜市子ども虐待防止ハンドブック 横浜市こども青年局こども家庭課 横浜市こども青年局こども家庭課 2011

367.7キ 
セックス嫌いな若者たち メディアファクトリー新書 北村邦夫メディアファクトリー 2011

367.9ウ 
男の子の心とからだ 見たい 聞きたい 恥ずかしくない!性の本北村邦夫 編著 金の星社 2012

367.9ウ 
女の子の心とからだ 見たい 聞きたい 恥ずかしくない!性の本北村邦夫 編著 金の星社 2010

367.9タ 
大学生と語る性 インタビューから浮かび上がる現代セクシュアリティ 田村公江/細谷実 晃洋書房 2011
367ア 
いじめないで。 阿蘭ヒサコ・富部志保子 NTT出版 2012

367ウ 
いま、家族の何が問題か 戦後の家族史を振り返って瓜生武 著 公益社団法人家庭問題情報センター 企画編集 (財)司法協会 2012

367ウ 
女性のからだとこころ 自分らしく生きるための絆をもとめて 内田伸子 編著 金子書房 2012

367ク 
メディアとジェンダー 国広陽子 編 勁草書房 2012

367コ 
ジェンダーの話をしよう 母から娘へ 権仁淑 梨の木社 2011

367シ 
家族と教育 ジェンダー史叢書2育 石川照子・高橋裕子 明石書店 2011

367シ 
専業主婦になりたい!? ”フツウに幸せ”な結婚をしたいだけ、のあなたへ 白河桃子 講談社 2011

367シ 
女って大変。 働くことと生きることのワークライフバランス考 澁谷智子 医学書院 2011

367シ 
子ども虐待の理解・対応・ケア 社会的養護シリーズ3 正司順一・鈴木力・宮島清 福村出版 2011

367ス 
子ども虐待としてのDV 母親と子どもへの心理臨床的援助のために 「ひと」BOOKS 春原由紀 星和書店 2011

367ス 
子ども虐待としてのDV 母親と子どもへの心理臨床的援助のために 春原由紀 編著 武蔵野大学心理臨床センター子ども相談部門 著 星和書店 2011

367タ 
同性愛の謎 なぜクラスに一人いるのか 文春新書 竹内久美子文藝春秋社 2012

367ノ 
それでも、家族は続く 信田さよ子 NTT出版 2012

367ミ 
二極化する若者と自立支援 「若者問題」への接近 宮本みち子・小杉礼子 明石書店 2011

368.2モ 
貧困社会ニッポンの断層 森岡孝二 桜井書店 2012

368.2モ 
貧困待ったなし! とっちらかりの10年間 自立生活サポートセンターもやい 岩波 2012

369.7ア 
良寛さんの心を今に伝える傾聴ボランティア 好かれるシニアは「きき上手」別冊2 青木羊耳 朱鳥社 2012

369ヒ 
“3・11被災地子ども白書” 大橋雄介 明石書店 2011

369ム 
福島からあなたへ 武藤類子 著 森住卓 写真 大月書店 2012

369ヤ 
東日本大震災 教員達の活動記録 山形県立保健医療大学看護学科 山形県立保健医療大学 2012

370.4ヒ 
こうして彼らは不登校から翔びたった 子どもを包む、3つの言葉 比嘉昇 ウェッジ 2011

370.4マ 
16歳の迷っていた僕への手紙’12 不登校、いじめ、心の病、みんな乗り越えられたよ シリーズ「体験談を聴会」の本1 学びリンク株式会社 学びリンク株式会社 2011

370.5ト 
都立高校と生徒の未来を考えるために 都立高校白書 平成23年度版 東京都教育委員会 東京都教育委員会 2011

370.5モ 
文部科学統計要覧 平成23年版(2011) 平成24年版 2012 文部科学省 日経印刷 2012

370.5モ 
文部科学白書 平成23年度 東日本大震災からの復旧・復興 人づくりから始まる創造的復興 文部科学省 文部科学省 2012

370.6コ 
全国工業高等学校 要覧 平成24年度 第59号 公益社団法人全国工業高等学校長協会 全国工業高等学校長協会 2012

371.2ア 
ジェンダーと教育 横断研究の試み 愛知淑徳大学ジェンダー・女性学研究所 編 ユニテ 2012

371.2ウ 
マス・リテラシーの時代 近代ヨーロッパにおける読み書きの普及と教育 デイヴィッド・ヴィンセント 新曜社 2011

371.2オ 
開発空間の暴力 いじめ自殺を生む風景 荻野昌弘 新曜社 2012

371.2チ 
中国系ニューカマー高校生の異文化適応 文化的アイデンティティ形成との関連から 趙衛国 御茶の水書房 2010

371.2ニ 
教育社会学研究 第90集 教育と責任の社会学 日本教育社会学会 編 東洋館出版社 2012

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書評と紹介
伊田広行 『ストップ!デートDV-防止のための恋愛基礎レッスン- 』解放出版社 2011年11月刊

 養護教諭として高校生に関わること、すでに四半世紀以上・・・。昔から男女交際における一方(多くは男子)によるもう一方(多くは女子)への【暴力】や【度を越えた束縛】や【度を越えた自己中心的な振る舞い】についての相談はあった。学力や生徒指導案件の数による学校差はなく、これまでに経験したすべての学校で相談があった。よその学校でも同じような話があった。
 だから早くから養護教諭たちはこの問題に関心を寄せ、養護専門委員会では2005(平成17)年に講師を招いて学習会を開き、情報交換をしてきた。
 そういう男女間の困りごとに「デートDV」という名称がつけられ、広く養護教諭の研修会や人権関係の研修会に取り上げられるようになったのは、内閣府が2010(平成22)年、デートDVの教材を作った時期だから、つい最近のことである。
 名称がつけられたからといって生徒が「デートDVにあって困っています」なんてわかりやすく相談にくることはなく、いつだって「頭が痛い」とか「気持ちが悪い」と言って保健室にやってきて、「なんでこんなに睡眠時間が短いの?」などと質問していくと「彼氏が・・・」という感じで話が始まるのだ。思春期に経験する楽しくほろ苦い異性との付き合いが、自尊感情を蝕み恐怖感しか与えないなら、せめて目の前にいる生徒の力になろうと思い、微力ながら支援をしてきた。
 でも実は、本当に自分の対応で大丈夫なのだろうか、本当は生徒が言うように「優しい時もあるからDVじゃない。」のか、もう少し様子を観てもいいのではないか・・・と私自身も苦しかった。
 そのような折に「高校教育会館教職員のための夏季講座」で伊田広行さんの講演を拝聴する機会を得た。

 伊田さんの主張は「高校生は社会のジェンダーや暴力容認の影響を受けて多くのものが無意識のうちにDV的な関係を持ってしまう。実は大人の側も恋愛や家族においてDVにつながるような従来の秩序に沿った意識を持っている。だから、非暴力かつシングル単位の視点で恋愛や家族をとらえかえす必要がある」というものだった。男女共同参画社会の視点から語られるDV防止の研修会とは切り口が異なるという印象を受け、とても納得できた部分と、「なんか違うな~」と感じる部分があった。
 「納得!」したのは「グレーゾーン」という考え方で、「どこからがDVで、どこまではDVではないのか?」という日頃の私の疑問に対して、DV的な関係にも「程度」があることを図解つきで見事に答えてくれた。保健室ではこの「グレーゾーン」をキーワードにすると、行きつ戻りつする生徒の話に寄り添える予感がした。
 また、生徒の相談でいつも困ってしまう「でも、別れてくれない。本当に怖くて逃げるのは無理。」というように、関係を断ち切りたくても断ち切れないでいる生徒に対して、「別れに同意はいらない」と言い切ればよいのだと知った。さらに私たち大人の「普通だと思っている恋愛観」にも、DVと非常に親和的な考え方が存在していることに気づくことができた。
 一方「なんか違うな~」と思ったのは「シングル単位」という考え方である。伊田さんが言わんとしていることは頭では理解でき、その反対の「カップル単位」という考え方がDV防止の立場からみて非常に危険なことも理解できる。しかし、この考え方を実社会のなかで実現したり、生徒に教えていくことは、今の私ではなかなか難しい。
 デートDV防止に少しでも関心のある方は、伊田さんの著書『ストップ! デートDV-防止のための恋愛基礎レッスン』を読み、自分自身に基礎レッスンを受けさせてみてはどうだろう。同じように毎日高校生と向き合っている多くの方々と、伊田さんの主張のポイントでもある「シングル単位」という考え方を含めて、この本をめぐって意見交換をしてみたいと思う。デートDVの問題を抱えている生徒がいない学校は、おそらくないと思うから。
           
 (県立高校養護教諭  今富久美子)

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雑誌論文目録抄

○季刊 教育法(173) エイデル研究所(12.6)
<特集>教育委員会の廃止・存続を問う
〔インタビュー〕
・教育委員会制度の抜本的な改革を―「中央集権システム」こそが諸悪の根源 穂坂邦夫
・橋下政治の危険性と民意のつくられかた 斉藤貴男
・教育委員会制度の必要 高橋寛人
・教育委員会制度改革の方向性 伊藤正次
・市町村教育委員会再生の条件は何か 堀 和郎
<連載>
:事例研究 教育管理職のための法常識講座 梅野正信
:学校事故研究 橋本恭宏
:「教育紛争解決学」の創設・樹立に向けて 森部英生
:スポーツ基本法が示す「体育・スポーツ指導者」のあり方 眞鍋知子
:東北アジア共同の家を求めて ― サハリン・旅の想い出 黒沢惟昭
子ども・教育と裁判
判例研究① 光市母子殺害事件第二次上告審判決 辻本衣佐
<論文>
東日本大震災後の教員配置の検証 大森直樹

○季刊 教育学研究(79-2) 日本教育学会(12.6)
<特集 教育制度改革の現状と展望―オルタナティブな制度構築に向けて―>
「正義」と統合学校の正当化 宮寺晃夫
義務教育の基盤としての教育財政制度改革 末富 芳
米国のスモールスクール運動の展開にみるオルタナティブな教育制度構築の課題 後藤武俊
教師教育改革の現状と展望 山﨑準二
大学入学者選抜制度改革と社会の変容 中村高康

○月刊 教育(798)教育科学研究会編集 かもがわ出版(12.7)
<特集>論点・大阪の「教育改革」
・大阪条例問題と現代社会の貧困 五十嵐仁
・ポピュリズムと民意 只野雅人
・新教育基本法と大阪府教育関係3条例 中嶋哲彦
・教育目標は誰が決めるか 村上祐介
・「高校で学ぶ権利」の保障 与田 徹
・大阪府・市教育条例の法的問題 武村二三夫
・小学校・中学校教育における「留年」の問題 山根俊喜
・学校に言論の自由を ― 東京地裁判決を受けて 土肥信雄
<資料> 大阪府教育行政基本条例・大阪府立学校条例
<特別論文>
・教師のユーモア精神と養生思想 間宮正幸
<特別寄稿>
一生活綴方教師の戦前・戦中・戦後 大田 堯

○月刊 教育(799) 教育科学研究会編集 かもがわ出版(12.8)
<特集1> <復興>の教育学
・「大地への罪」を問いながら 佐藤広美
・「フクシマ」で生き、生きていくこと 遠藤智恵
・「石巻地域」の被災の現状といま 菊池英行
・「広場」をつくることば 岩﨑晴彦
・求められる「良質の知」がもつ構図と倫理を考える 久冨善之
・コミュニティの再生と学校づくりをつなぐ 佐貫 浩
<特集2> 教育のいま・5つの課題焦点
・子どもの生活と子ども理解 山形志保・山﨑隆夫
・教育実践と教師 その困難・課題・希望 石垣雅也
・学校はいいところか? ひどいところか? 宮田雅己・本田伊克
・「地域・労働・貧困と教育」を考える 細金恒男
・福島をとおして見えてくる新自由主義的改革の問題点 佐藤修司

○月刊 教育(800) 教育科学研究会編集 かもがわ出版(12.9)
<特集>「教育を語ることば」の復権
・「大津市いじめ自殺事件」と子ども理解 福井雅英
・子どもと教師の苦難から学校の再生を求めて 佐藤 博
・学校と教育課程がよみがえる「学力」とは 田中昌弥
・学校制度のなかの学校知識と人格形成 山田哲也
・情報・消費社会の子ども・若者 池田考司
・子ども把握と教育実践 藤田和也
・「バーチャルな地域」と学校 細金恒男
・教育改革における教師「個人」と協働 勝野正章
<教育科学研究会再建60周年に寄せて・メッセージ>
大田 堯/志摩陽伍/吉益敏文/岩辺泰吏/佐藤 隆
<特別論文>
・「キャリア教育」に代わる移行支援 滝口克典

○月刊 教育(801) 教育科学研究会編集 かもがわ出版(12.10)
<特集1>大津いじめ自殺事件
・いじめ暴力の根絶を 横湯園子
・いじめ自殺事件に見る現代のこどもの局面 村山士郎
・中学校の保健室から見たいじめ 舟見久子・松本順子・桐井尚江・藤田和也
・いじめ事件と教育の危機 本田清春
<特集2> 子ども・若者の不安と安心
・いつでも幸福でいられる不幸 中西新太郎
・教師のまなざしが教室の安心につながる 石井広昭
・「表現したい」「成長したい」気持ちに寄り添って 渡辺克哉
・泣かないのはがまん強いからなの? 片山恵子
・「見捨てられない」という安心感を育て 武田理雅
・漠然とした不安を抱えて生きる子どもたちに 島田三明子
・心に安心感と希望を育む教育・福祉実践の課題 楠 凡之
・子どもの「不安」が「安心」に変わるとき 石島志乃・穂高 歩・北河栄里
・保健室で出会った子どもたち 濱 ゆり
 

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余瀝

 上野千鶴子さんを迎えた2012年の高校教育会館夏季講座。それぞれの場でもう少し「闘ってみよう」と思いながら藤棚の坂を下った参加者も多かったのではないでしょうか。当日の様子は巻頭をお読みください。書評は「デートDV」です。この中で語られている、養護の先生方の2005年の学習会講師は、アウエアの山口のり子さんでした。私も参加させてもらい、生徒間で起こっている事の意味や背景が解き明かされ、「そうなんだ!」と納得、またどう向きあえばよいのか大きな示唆を受けたことを思い出しています。デートDVだけでなく、保健室からの発信はいつも時代を先取りしているように思います。

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